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『リング』前夜
『学校の怪談』(関西テレビ)が1996年7月に特番『学校の怪談R』として復活し、翌1997年7月には第2弾『学校の怪談f』が放送される。『R』はまだ元のシリーズから引き続き、基本子供向けの作りではあったけれど、『f』以降はシリアスな本格ホラーにシフトしていて、TVドラマながらJホラーの重要作をいくつも発表している。
第1話「霊ビデオ」は中田秀夫監督・小中千昭脚本の女子高校を舞台にしたリリカルな思春期ドラマ。女子高生同士の揺れ動く機微の表現が素晴らしく、録画されたビデオを通してあの世とつながるという恐怖演出もユニーク。この時点で『リング』がすでに撮られていたのかは不明だけれど、『リング』(特に冒頭)を思わせる演出がいくつも見られる。
第3話「廃校綺談」は黒沢清監督・大久保智康脚本。高橋洋扮する校長の校内放送からはじまる、終始世紀末感がただよう傑作。廃校で取り壊しが迫った学校で、それまで噂で伝えられてきた都市伝説や幽霊が次々と現れてくる。生きている人間を幽霊に見えるように撮っていたり、現実の設定でありながらあの世のように感じさせたりと、今作ですでに黒沢清のスタイルが確立している。
10月には飯田譲治監修の深夜ドラマ『幻想ミッドナイト』(全11話)がテレビ朝日で放送スタート。日本作家のホラー・怪奇小説を映像化したオムニバスで、高橋洋が脚本をつとめた第5話「ゆきどまり」(原作:高橋克彦)は唯一異彩を放っているけれど、全体的には「世にも奇妙な」的なサイコサスペンスやファンタジー系。ちなみに第1話「夢の島クルーズ」(原作:鈴木光司)は、2007年に鶴田法男監督が『ドリーム・クルーズ』というタイトルでふたたび映像化している(米ドラマ『マスターズ・オブ・ホラー』の一篇)。
12月には黒沢清監督・脚本のサイコ・サスペンス『CURE』が劇場公開される。幽霊や呪いなどの超常現象が起きるわけではないので、Jホラーの中に入れてしまって良いか迷うところだけれど、日常や常識が歪んでいく演出はJホラーに共通するものであり、欧米のサイコ・サスペンスとは異質の恐怖を味わうことが出来る。また、難解になりがちな黒沢作品のなかでは、作家性と物語のバランスが良く完成度が高い作品。
『CURE』のほかにも、この年にはJホラーの主要監督や脚本家が関わったサスペンス作品が立て続けに公開されていて、幽霊こそ出ないけれど、いずれもJホラーに通じる「怖さ」が含まれているので、機会があればぜひ。
『復讐 THE REVENGE 運命の訪問者』監督:黒沢清、脚本:高橋洋
『復讐 THE REVENGE 消えない傷痕』監督・脚本:黒沢清
『暗殺の街 極道捜査線』監督:中田秀夫、脚色:高橋洋
『インフェルノ 蹂躙』監督:北川篤也、脚本:高橋洋
(つづく)