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短編から長編へ
1996年になるとそれぞれ活動の規模は拡がり、各自長編の作品を手がけるようになる。
『呪われた美女たち 悪霊怪談』は鶴田・小中コンビによる5話オムニバスのOV。当初は『Giri Giri Girls in 超・恐怖体験』というタイトルで、5巻に分けて発売されていた。Giri Giri Girlsの各メンバーが体験したすこしエロティックなホラーという趣で、テーマもゾンビ、吸血鬼、心霊、妖怪などバラエティに富み、小中色が強い内容になっている。演技の拙さもあって、全体的に安っぽさは否めないけれど、第4話「心霊ビデオ」でのビデオにぼんやり映り込み徐々に迫ってくる幽霊と、ヒロインに取り憑こうとのしかかる幽霊の影表現は、その後Jホラーの定番になる。
さらに同年、鶴田法男監督・脚本(共同脚本:小川智子)による初の長編OV『亡霊学級』が発売される。つのだじろうの同名コミックが原作となっているけれど、単なる映像化では無く、原作コミックをきっかけとしたメタ構造のオリジナル脚本で、つのだじろうも本人役で出演していたりとかなり凝った作りになっている。
派手なホラー描写は少ないが、思春期の少女たちのシリアスな青春ドラマと実話系ホラーの組み合わせに成功していて、『ほん怖』で試されたスタイルを長編に昇華している。そのホラー演出の手法のほとんどが後の作品に影響を与えていることを考えると、『ほんとにあった怖い話 第二夜』と並んで重要な初期作品といっていいだろう。ちなみに今作には黒沢清が「心霊写真の鑑定を依頼されたまま失踪してしまう」助教授役で友情出演していて、このエピソードも実話怪談的。
3月には中田秀夫監督と高橋洋脚本による長編『女優霊』が公開される。Jホラーでははじめての劇場公開作品となった。原案はにっかつ撮影所出身の中田秀夫によるもので、映画製作現場に対する愛があふれる丁寧なドラマ作りと、高橋洋による不吉で忌まわしいエピソードとのバランスが絶妙。クライマックスの幽霊出現シーンには賛否両論あるが、その反省がのちに『リング』で結実することとなる。
続いて4月には長編『DOOR III』が公開される。監督=黒沢清、脚本=小中千昭というありそうでなかった組み合わせの、今のところ唯一の作品。
大まかなストーリーは保険外交員(田中美奈子)が営業先で特殊なフェロモンを発する男と出会い、事件に巻き込まれるというエロティックなサイコ・サスペンスで、厳密にはJホラーでくくれないかもしれないけれど、小中千昭と組んでいる安心感からか、従来のアメリカンなホラースタイルをベースにしつつも露骨に〈小中理論〉の幽霊描写の実践をしていて、さらに小中もクローネンバーグ的世界観を盛り込んだりと、かなりカオスな、ある意味黒沢清らしい作品となっている。
(つづく)