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『リング』公開
1998年1月に『リング』が公開される(同時上映は『らせん』)。監督は中田秀夫、脚本は高橋洋。監督と脚本は『女優霊』を観ていた原作者の鈴木光司が指名したそうで、Jホラーとしては初めての大規模な公開となった。ストーリー展開、恐怖演出、オカルト要素、人間ドラマのバランスが絶妙で、Jホラーの傑作のひとつと言って良いだろう。この『リング』の全国的なヒットにより「Jホラー」が一般的にも認知されはじめ、ブームがはじまるきっかけとなった。
「はじめに」でも書いたように、原作小説『リング』はホラーと言うよりは、当時流行っていた京極夏彦や坂東眞砂子のような伝奇スリラーという印象が強かった(先のTVドラマ版はこちら寄り)。実際この映画版もストーリーの推進力となっているのは、超能力を使って設定をかなり端折ってはいるものの、ロジカルな謎解きのサスペンスである。そして、ラストでブラウン管から這い出てくる貞子の印象が強いため、Jホラー=女の幽霊というイメージがついてしまったが、幽霊はスクリーンにはほとんど登場しない。それなのに映画全体があたかも呪われたような不穏な雰囲気に包まれているのは、随所にちりばめられた実話怪談的なささいな怪異や不吉なシーン、そして繰り返し登場する「呪いのビデオ」の不気味な映像化によるところが大きく、これこそがJホラー演出の重要なポイントであることを証明している。
7月には『新生トイレの花子さん』が劇場公開される。監督は堤幸彦、脚本は高橋洋。東宝版『学校の怪談』や松岡錠司版『トイレの花子さん』の流れにある子供向けのスペクタクルファンタジーでありながら、高橋洋脚本だけあって、冒頭の心霊写真をはじめ随所に不気味なJホラー表現が差し込まれている。本格ホラーと子供向けの間のような作品。
9月には特番『学校の怪談G』(関西テレビ)が放送される。
第2話「片隅」、第3話「4444444444」の監督・脚本は清水崇。どちらもブリッジ的な3分の短編で、この作品がデビュー作となった。伽椰子と俊雄の原型が登場していて、のちの『呪怨』の1ピースとなる内容。初期Jホラーのスタイルを踏襲しつつも、次世代を予見させる新しい表現に踏み込んでいる。
第4話「木霊」は黒沢清監督・高橋洋脚本、原作は網野成保の短編マンガ。透視能力があると自称する女生徒が能力を証明するために、校内に隠れた生徒を言い当てるゲームを始めるが、隠れた生徒や教師までもが次々と“木霊”に取り殺されていく…という意欲的な内容。『リング』がブレイクした直後ながら、こちらも新しいJホラー表現を模索していて、のちの『降霊』や『回路』につながっていく。
(つづく)