女優霊

映画の撮影スタジオに棲む女優の霊が、映画の撮影現場に怪異をもたらしていく。
『本当にあった怖い話』で出会った中田秀夫・高橋洋コンビによる、映画の撮影スタジオを舞台にした長編。中田監督の映画製作に対する愛情、メロウなドラマと高橋脚本による生理的に恐怖を感じさせる仕掛けのバランスが絶妙。音楽もすばらしい。ちなみに中田監督による『ラストシーン』(2002)も映画製作現場を題材にしていて、非ホラー版『女優霊』といった感じの秀作。ホラーじゃないのにちょっと怖いです。

ここで登場する幽霊は、舞台になるスタジオで以前事故死した女優の霊。長い黒髪に白いワンピースを着ていて、お歯黒をつけた口を開け狂ったように笑っている(が、声は聞こえない)。未現像フィルムの中(見返すたびにはっきりしてくる)、ロケバス、人気のない廊下、鏡の中などにぼんやり登場するのだけれど、クライマックスで監督が襲われるシーンだけは、舞台演劇のような照明が当たって力強く描写されている。まるで怪物映画のようで、幽霊好きとしては違和感があるけれど、今回再度見てみて、これは監督(映画の中の役柄)が子供の頃に記憶していたテレビ映画の再現なのではと思いなおした。

監督・原案:中田秀夫
脚本:高橋洋
出演:柳ユーレイ、白島靖代、石橋けい、大杉漣、サブ、菊池隆則、高橋明、根岸季衣、芹沢礼多、日比野玲、小林宏司、李丹、飯島大介、小島なおみ、染谷勝則、吉田祐健

75分/1996年

女優霊 [DVD]

学校の怪談(関西テレビ)

関西テレビ系で1994年1月14日から1994年3月25日まで放送された学園ホラードラマシリーズ。全11回。そのうち6回分が3巻に分けてビデオ化されている。構成は小中千昭で脚本を担当している回もある。
ここで黒沢清がはじめてJホラーにアプローチをしているが、ソフト化されているのは「花子さん」のみで、ほかの2話は残念ながら未見。

●「花子さん」:学校に伝わる花子さん召喚のうわさを仲の良い中学生3人組がなんとか試そうとする。
不自然にはためくカーテン、窓にうつる不気味な木の影、突然倒れる消化器など不穏はシーンはありながら、基本は黒沢清らしいオフビートのコミカルな青春ドラマで、ちょっとジュブナイル的でもある。クライマックスについに登場する花子さんは赤いドレスを無理矢理着たレザーフェイスのような出で立ちでゆっくりと向かってくる。自身が公言しているように、このシリーズでは『ほんとにあった怖い話 第二夜』の影響を強く受けていて、ここでの描写は「夏の体育館」の幽霊が下敷きになっている。最初にひとりだけ召喚を成功させ、しばらく行方不明だったクラスメイトの村井が実は幽霊だったと妄想すると怖い(そんな描写はないけど)。

第3回「花子さん」(1994年1月28日放送)
監督:黒沢清
脚本:黒沢清
出演:本田智一、車和也、寺田卓司、石原誠、南条好輝、佐藤雅夫、築山周典、高宮武郎、樹美穂、東川和生、大和綾子、大駅俊介

第4回「音楽室の少女」(1994年2月4日放送)※未ソフト化
監督:黒沢清
脚本:相良敦子
出演:福田賢二、藤田香織、白川明彦、金井信一郎、大元崇生、山中康弘、山本弘、表淳夫、相沢伸江、山内勉、金森有美、中萩しおり

第11回「あの子はだあれ?」(1994年3月25日放送)※未ソフト化
監督:黒沢清
脚本:黒沢清
出演:馬渕英俚可、上園小雪、上村厚文、新海百合子、小牟田玲央奈、三品守、加来朋子、木村佳代、吉井基師、池田俊介、本田和之、小谷豪純、乾圭吾、行政浩司、森あつこ、金端三千代、逢坂幸広、佐々木かおり

各25分/TVシリーズ/オムニバス/1994年

学校の怪談 第1巻 [VHS]

本当にあった怖い話 呪死霊

オムニバス心霊ドラマのTVシリーズ『本当にあった怖い話』(テレビ朝日)で中田秀夫が演出を担当した3本「呪われた人形」「死霊の滝」「幽霊の棲む旅館」をのちにビデオ化したもの。

●「われた人形」:主人公(羽田美智子)が幼い頃に火事で亡くした姉の霊が市松人形に憑依する。
人形の特撮や声など一見チープなところもありながら、顔に影がかかって歯列矯正器具をつけた口元しかうつらない姉の幽霊はぞっとするし、最後のお焚き上げ供養のシーンなど何か不吉なことが起きているという空気が全体に満ちている。その後の中田秀夫作品同様、怪異現象だけでなく、人間の情念(ここでは劇団の配役争い)をしっかりと描いているのもポイント。

●「霊の滝」:川で子供を事故死させたことを苦にして自殺した母親の霊が、年格好の近い少年を引きずり込もうと襲いかかる、という親子愛をベースにしたお話し。
ホラー演出自体はオーソドックスで正直リアルではなく、実話系のJホラーというよりフィクショナルで、のちの『怪談』につながる系譜の作品。朽ち果てた行方不明者さがしの看板は不気味で良かった。

●「霊の棲む旅館」:古い屋敷を改装した日本旅館の一室に棲んでいる少女の幽霊が、部屋に置かれた三面鏡に残された赤いマニキュアを通して似た境遇のユカリ(水野美紀)に取り憑こうとする。鶴田法男「霊のうごめく家」と並んでJホラー模索期の重要作。
放送順からすると高橋洋とはじめて組んだ作品で、中田秀夫の監督デビュー作。デビュー作で気合いが入っていたのか、さまざまな恐怖描写が試されていて、ホームビデオを通した映像や幽霊描写などそれぞれのアイデアは今観ても十分に怖いけれど、詰め込みすぎでストーリー的には散漫に感じてしまう。

「呪われた人形」(1992年8月31日放映)
監督:中田秀夫
脚本:高橋洋
出演:羽田美智子、赤座美代子、川上麻衣子、秋山菜津子、時田成美、桑畑昭子、伊落卯木、高橋美香、中井曜子、山田純世、斎藤正吾、橘優美、村松克巳、六平直政

「死霊の滝」(1992年8月31日放映)
監督:中田秀夫
脚本:塩田明彦
出演:丘みつ子、金久美子、三上真一郎、山村美智子、滝口秀嗣、藤田大助、永田絢子、門脇三郎

「幽霊の棲む旅館」(1992年6月22日放映)
監督:中田秀夫
脚本:高橋洋
出演:白島靖代、中村由真、水野美紀、江波杏子、志村幸江、小林美和子

65分/TVシリーズ/オムニバス/1992年(ビデオ化は1999年)

本当にあった怖い話 呪死霊 [VHS]

ほんとにあった怖い話 第二夜

鶴田法男と小中千昭が出会うきっかけになった心霊体験再現ドラマのオムニバスビデオ『ほんとにあった怖い話』(同年)に続く2作目。このあとにも同じコンビで3作目『新・ほんとにあった怖い話 幽幻界』(1992年)、『戦慄のムー体験』(1994年)を制作しているけれど、Jホラー的に注目すべきはこの2作目に収録されている「夏の体育館」と「霊のうごめく家」。

●「夏の体育館」は肝試しで真夜中の体育館に忍び込んだ少女たちの心霊体験譚。放送室に現れる女幽霊は、顔を半分長い髪で隠し、赤いボディコン姿でかくかくと迫ってきて、かなり怖い。ここではまだ足下を半分透けさせて幽霊であることをわかりやすくしているものの、その後のJホラーの幽霊造形の基本になった。

●「霊のうごめく家」は借家に越してきた家族が体験する心霊現象をドキュメンタリータッチで淡々と追った、Jホラー黎明期の傑作短編。子供向けのたわいのないエピソードが多いなか、大人の鑑賞にも堪えうる深みのある脚本と演出で、このまま長編にもなりそうな出来。引っ越したばかりの感情の不安定さと心霊現象による恐怖をうまく重ね合わせ、たとえ心霊現象が起きても、そのことだけに翻弄されず、日常生活は続けられているところがリアル。ここで現れる地縛霊は、上下黒ずくめの男性。顔を多少メイクしてはいるものの、そのまま普通の人間が演じていて動きはほとんどない。異形にならないように幽霊らしさを出そうとする方法のひとつで、その後、黒沢清などに継承されていくたたずむタイプの幽霊の元祖だけれど、こちらはノンエフェクトで幽霊としての記号が少ないので、今見るとやや微妙ではある。

ちなみに、のちのフジテレビ版「ほんとにあった怖い話」で同じく“借家もの”「憑かれた家」(2003年/ユースケ・サンタマリア主演)を鶴田演出で撮っていたのだけれど、オープニングのショットはこの作品を自ら引用していた。

監督:鶴田法男
脚本:小中千昭
出演:
「夏の体育館」中島佐和子、春原由紀、寺田恵美、水沢杏子
「霊のうごめく家」小笠原亜里沙、藤生有紀子、竜のり子、金箱和見、島津えり、伴直弥
「真夜中の病棟」相沢朱音、金巻陽子

60分/オリジナルビデオ/オムニバス/1991年

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サイキック・ビジョン 邪願霊

アイドルの新曲キャンペーンを追うドキュメンタリー撮影中に怪異が起き、そのお蔵入り映像を再編集したという設定のフェイク・ドキュメンタリー。Jホラーの重要人物小中千昭が脚本を手がけた最初期のビデオ作品ではあるけれど、基本ドキュメンタリーの体裁をとっているため、『リング』のようなホラー映画を期待して観ると肩すかしを食らうかもしれない。スタイルとしてはむしろ『ほんとにあった!呪いのビデオ』や『放送禁止』に近い。

クライマックスに起こるポルターガイストや霊にとり殺される場面などは、正直前時代的で低予算ゆえのチープさを否めないけれど、テロップによる状況説明や撮影された映像の隅に白いワンピースを着てぼんやり写り込んでいる幽霊描写はユニークで、のちのJホラー演出の原型になった。撮影されたフィルムを通して怪異が起こるという設定も、Jホラーでは定番。

演出:石井てるよし
構成:小中千昭
出演:竹中直人、石山一枝、梅原正樹、佐藤恵美
49分/オリジナルビデオ/1988年